藤井麻輝の積極的なインターネット活用・WEB時代の音楽活動形態

改めて考えると、藤井麻輝氏(SOFT BALLET、SCHAFT、SHEshell、睡蓮)のインターネット・WEB界隈への取り組みや考え方は非常に面白かった。

音に関しては当ブログにいくつか記事を残しているので参考にして頂き、ここでは「取り組みや考え方」について記録しておく。ご本人は残念ながら引退してしまったが、改めてその先進的な姿勢を辿っていきたいと思う。

音楽業界を大きく変容させた2つの出来事

ここ数十年で、音楽の楽しみ方は大きく変化を遂げた。
インターネットの普及、そしてスマートフォンの普及が大きな要因であることは間違いない。音楽時代はもとより、さまざまな情報の届き方が変わったと言える。

まずインターネットが発展することにより情報の伝達方法が変わり、その後iPhoneをきっかけにスマートフォンが普及したことで、それが子供レベルにまで浸透したことになる。

これらによりCD売れなくなったというのはよく耳にするが、「リスナーに音を届ける」ということを信条とするならば、これらの普及は大きな「発展」をもたらしたと言えるだろう。未だにCDでの販売にこだわるアーティストも居るし考え方はそれぞれだが、こうしたWEBの波を藤井麻輝氏はどう捉えたのか?

印象的な出来事をいくつかピックアップしていく。

個人WEBサイト「stroma」

この記事を書くにあたりネットで調べてみたけど一切記載が無かったのだが、覚えている人はいるだろうか?

今では当たり前の、アーティストの公式WEBサイト。藤井氏はわりと早い段階で「stroma」という個人サイトを開設していた。しかも当時の最新鋭のflashバリバリで先進的なページを。トップページを開くと音楽が鳴ったり、真っ黒な背景で、そもそもflashバリバリでカッコいいけどみにくいというのも、当時ならではのものであった。
(Internet Archiveでも見られないのはflashで作られたページだったからだろうか。2000年前後頃にドメインが使われた履歴しか確認できない)

ご本人による文章(ブログという言葉が出てくる以前)も掲載されていたが、過去の文章をすぐに消してしまうのも「らしさ」抜群だった。そのテイストは、その後の睡蓮公式サイトにも受け継がれたように思う。

MySpaceの活用

スマートフォン普及前に一世を風靡した、MySpace。音楽を軸としたコミュニケーションを図れるオープンSNSで、最先端のアーティストもこぞってアカウント開設し、音楽発信側の姿勢を大きく変えたのではないだろうか。

「MySpaceとFacebookはどっちが流行るか?」と言われていた頃もあったが、その後Facebookは2008年に日本に上陸し、当時ではあり得なかった「ネットで実名を公開する」サービスながら一気に普及した感がある。

MySpaceは結果的に廃れてしまったが、当時は音楽の情報源として活用できるものであった。睡蓮のMySpaceでは、新曲のデモ音源が早くから聴けたりしていたので、今では当たり前の「無料で聴ける」ことに当時は衝撃を受けたものだ。

ファンクラブのオンラインサービス

2002年に待望の、そしてまさかのSOFT BALLET再結成。
結果的に2002年〜2003年というごく短い期間の活動だった。私はいいチケットを取るためにファンクラブに入会したのだが、FCといえば当たり前だったFC会報冊子は無し。特典として会員限定WEBページに入れるというもので、当時としてはかなり画期的だったのを記憶している。

スマートフォンも無い時代なので、パソコンからインターネットに接続して情報を得ていたのだ。

楽曲のダウンロード限定販売

「睡蓮」というプロジェクトが発表されてからしばらく経ち、待望のシングルとして2007年に発表された「Spine」。これが何とCDとしての販売はなく、iTunesMusicStoreでのダウンロード販売のみというものだった。

iTunesでのダウンロード販売が日本で始まったのが調べてみたところ2005年だそう。iPhone3Gが日本で発売されたのが2008年なので、まだまだCDからMacに音楽を取り込んでiPodに転送して楽しむのが主流の時代で、私が初めてダウンロード購入したのがこの曲だった。
(この曲の詳細記事はこちらの記事を参照)

サブスクによる楽曲アップデート(構想)

最後に。
これは実現には至っていないけど、面白い記事を紹介する。マッドカプセルの頃から親交のある上田剛士との対談。ダウンロード販売からサブスクが主流になった音楽配信における構想について語っている。

対バン開催直前! 上田剛士(AA=)と藤井麻輝(minus(-))が語る、それぞれの今後とは

この記事から一部を引用。

上田「誰かがやってたけど、新曲、ほぼ完成したらサブスクで公開して、どんどんアップデートしていったらいいんじゃない? ただ藤井くんの場合、それが10年くらい終わらない可能性があるけど(笑)」
藤井「そうだろうね。寝かせて寝かせて、毎日ちょこちょこアップデートして」
上田「最初のバージョン、今聴いておかなきゃ聴けなくなる、みたいなことにして」
藤井「minus(-)のライヴはそうだからな。最初のバージョンとかもうほとんど存在してなくて、どの曲も微妙にアップデートしてるから」
上田「いいじゃん。サブスクの曲はどんどんヴァージョン上げていって、同じアルバムなんだけど、最初のオリジナルとはヴァージョンが全然違う、とか(笑)」
藤井「それね、ずっと前からやりたいんだよ。だから僕の曲って、たまにバージョン0とか1ってついてるんだけど」
上田「楽屋でセットリスト見たら、ほとんどの曲に〈ver.2.0〉とか〈ver.1.2.1〉とかついてて」
藤井「小数点以下ね」
上田「藤井くんにしかわからないよね。あれ憶えてられるの?」
藤井「エンジニアのほうがわかってる。僕はだんだんわからなくなったりして(笑)」
上田「でも意外と新しくていいかも。バージョンアップしていく。ファンの人はきっと聴きたいから嬉しいですよね」
藤井「サブスクでバージョン違い。それけっこう夢だったんだよなぁ。同じものでちょっとずつ違うのを定期的に出すっていうのは。でもメーカーは必ず却下するんですよ」

サブスクでのヴァージョンを上げていくという構想。上田氏が切り出した話題だが、以前からやりたかったこととして語っている。確かにソフトバレエ時代から、リミックスやリマスター、またライヴ音源においても細かくアップデートして発信しているだけに説得力もあり、藤井氏のようなアーティストにはぴったりのアイデアだと思う。

WEBの概念に照らし合わせると、ヴァージョンを上げていったものをアーカイヴしていくなら蓄積されていくのでメリットがあると思うが、そうなると「アップデートしていく」という趣旨とは異なってくる。藤井氏の言っているのは、例えばスマホアプリが小数点単位でアップデートしていくようなイメージだろう。

ビジネスじゃなく「作品」であることにこだわり続ける藤井麻輝氏らしい構想と言えるだろう。実現できなかったことが悔やまれる。

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