高田延彦「泣き虫」プロレスと総合格闘技が交わることで達成したリアルファイトの夢

「いろいろと暖かい目で見ていただいたのに、ご迷惑をおかけしてどうもすみませんでした」

PRIDE23での、高田延彦引退試合。
対戦相手だった田村潔司のマイク。

もちろん試合はオンタイムで見ていたけど、高田と田村の確執を「ある程度」しか理解していなかった。しかしこの本を読んだ上で改めて考えると、その言葉の深さを感じるのであった。

「ある本」とは、
高田延彦「泣き虫」である。

2003年出版なので16年前の本なのだが、もちろん「高田の暴露本」的なニュアンスで存在は知っていた。しばらく興味が失せていたのだが、最近改めて色々と読み直していこうと思い、手にした一冊である。

高田の暴露本としての「泣き虫」

とりあえずこの本を「高田がプロレスの仕組みをバラしている」という暴露本的な観点で読むと、肩透かしを食らう。2003年当時に読んでいればまた印象は違ったのかもしれないけど、ミスター高橋の暴露本のような具体的な星取りの決め方までは言及していない。

・プロレスは勝ち負けが事前に決まっていた
・UWFもプロレスだった
・なのでPRIDEのリングに上がるのは別物

書かれているのはこの程度。
けどこれって、著者も書いていた通り、PRIDE戦士がどれだけすごいことをやっているのかを伝えるための手段だったというのが理由だと思う。ミスター高橋のような「プロレス界への復讐」的なものは感じなかったし、プロレスラーのすごさも痛いほど伝わってきた。

PRIDE戦士というのは、愛弟子であった桜庭和志の存在もすごく大きかったのがよくわかる。

本書では様々な人間との出会い、そして別れについて書かれている。
しかし、まさかその後、愛弟子の桜庭と別の道を歩むようになるとは思わなかっただろう。さらにいうとその後、自分がバラエティ番組で人気になるなんてことも!

兄貴分の前田日明との関係性も、知らなかったことも含めてグッとくる部分が多い。第2次UWFの後で別の道を歩む時のきっかけも意外なもので、ヒクソン戦前後にも接点があったことなど、知らなかったことも多い。もちろん前田日明としては思うところもあるだろうけど。

このように、人生においてここまで深い関係でも縁が切れることがあるという切なさを感じた。

シュートな感情が入り乱れるプロレス

旧UWFのいろんな映像を観たり検証した時期があったけど、第2次UWFとそこから分かれた3派についてはあまり詳しくなかったので、結構知らないこともあって勉強になった。

ただしこの本はあくまで「高田視点」。
第1次UWFのところに佐山聡が全く出てこないところには違和感を感じたし、PRIDEでもアレクサンダー大塚戦・マークコールマン戦などの「いろいろ気になる試合」には触れていなかったり

Uインターでの北尾戦で、引き分けの取り決めを破ってハイキックKO!という伝説の試合も、内幕を明かしつつも「いいのが入っちゃった」的な表現だったりして、舐めた態度に対する制裁的なニュアンスは感じられない。

まあこの北尾戦にしても、プロレス最強を信じて追求してきつつも「事前の取り決め」の存在に対するジレンマを抱えてきた高田が、皮肉にもプロレスのリングでプロレスの強さ(やったモノ勝ち)を証明したと私は考えている。

武藤敬司に足四の字固めで負けるという「プロレス的な形」で終焉したUインターだが、その周囲や背後では様々なドロドロしたシュートな感情が交錯していたのがよくわかる。

その中のゴタゴタの一つが冒頭に書いた田村潔司だったわけで、巡り巡って高田の引退試合で引き合わされるというのは大きな運命のいたずらを感じずにはいられない。

WWEのレスラーはUFCのリングに上がらない

最強というメッキが剥がれてしまった総合格闘技のリング。
しかし、周囲の解釈は別として本人は、長年思い続けていたリアルファイトの夢を実現したのだ。

プロレス・格闘技それぞれのベクトルが接近し交わったのがPRIDEの時代。かつて全盛期の猪木やUWFに夢中だった人は「交わるはずのないモノがぶつかることで生まれる、何かすごい化学反応」を求めて、総合格闘技に夢中になった。

その後格闘技ブームとプロレス低迷を経て、再び両者のベクトルが離れていくことで、プロレスは独自の人気を巻き起こし新たなファンを獲得している。

マニアを排除し新たなファンを獲得することで、再び人気を取り戻した新日本プロレス。今のプロレスファンは、総合格闘技での強さの証明なんか求めていないし、格闘技のファン層とも一致していない。WWEのレスラーとUFCのファイターが戦うことが無いのと同じで、きちんと棲み分けられてそれぞれのファンを獲得している。

プロレスラーがヴァーリトゥードのリングに上がるというのは日本独自の事象であり、冷静に考えればかなりデタラメなことでもある。しかし、だからこそ「何かすごいこと」をリアルタイムで目にすることができた時代だった。

PRIDEを見ていた世代の人は、こういった本で脳内タイムスリップしてみると面白いかも。

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