【レビュー】細野晴臣「Medicine Compilation」マスではなく人間の内面に向けて響く、異世界のアンビエント音楽

まさか21世紀になって、あの3人が「Yellow Magic Orchestra」というグループ名で活動を行うとは、誰も思っていなかったはず。SketchShowに坂本龍一が飛び入り参加してからの自然な流れだったけど、21世紀以降いろんな再結成が行われた中でも群を抜いてサプライズだったと思う。

それに対し、いろんな思惑やビジネスが絡んだプロジェクトだったのが、ロゴに「×」のついたYMO再結成。これが1993年。

 こうした背景もあってあまりいい印象がないかもしれないけど、意外な選曲でありアルバム「テクノドン」の中でも異色だった「Pocketful of Rainbows」のカバーは結構気に入っている。

 

この復活YMOと同じ1993年にリリースされた、細野晴臣のアルバム「Medicine Compilation」。YMOの文脈で語ると当然、再結成YMOのタイミングなので影に埋もれがちではあるけど、細野晴臣史、いや、電子音楽史においては非常に重要な作品だと思う。

80年代後半のモナド観光シリーズから「Omni Sight Seeing」を経てのこの作品。世の中的には「アンビエント」ということで括られているが、表舞台の華やかなポップミュージックとは対極にある閉塞感、適度な気だるさ、無国籍感、そして匿名性が散りばめられ、タイトルにあるメディスン=薬・癒し的なテーマに沿っているように感じる。

 

ここで紹介するのは、アシッドな雰囲気漂う「Medicine Mix」。このアルバムでは唯一の4つ打ちだけど、心地よいテンポ。当時のラジオ番組で、石野卓球がこのアルバムの中で一番のお気に入りとしてかけたのがこの曲。

 

ちなみに私が一番よく聴いたのが、1曲目ながら8分もある大作「Laughter Meditation」。気だるいテンポながらもしっかりとしたキック音は、大地の音か?人間の鼓動か?そこに絡む妖しげな無国籍風ピアノフレーズが印象的で、一人暗い部屋で大音量で、目を閉じて心を無にして聴くと異世界に誘われそうな音。クセになる。

YouTubeのURLを貼りたかったけど、リミックス版しかないみたい。というわけでこの記事最後に貼ってある、AppleMusicサンプルプレイヤーで聴いてみてほしい。

 

改めて当時の細野晴臣の世界観・方向性を考えると、宗教的だったりオカルティックだったり、瞑想音楽・環境音楽といったキーワードが思い浮かぶし、このアルバムににも反映されている。そして、このアルバムのアンビエントな要素を再生YMOに持ち込みたかった細野晴臣としては、ニューヨークでレコーディングして東京ドームで復活ライブを行い、大きなニュースとなり世界に発信する一大プロジェクト(=坂本龍一の意向)としての再生YMOにはイマイチ乗りきれなかったのもすごくよくわかる。

「テクノドン」を聴くことはほとんどない私がこの「Medicine Compilation」を好きなのも、世の中=マスじゃなくパーソナルな内面に向けて音を出しているように感じるからかもしれない。

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