2015/06/220 Shares

事前に勝敗が決められたショーであるプロレスに、ジャーナリズムは必要か?(シュート活字とキャズム理論)


前回のエントリーで、キャズム理論というものを改めて考えてみました。
参考/ キャズムを乗り越えてレイトマジョリティー層にまで浸透したからこそ、バカッター騒動が起きる

新製品やサービスを投入する際にターゲットを5つの層に分けて考えるが、その間にはキャズムと呼ばれる大きな溝があるという話です。

そして、このキャズムと呼ばれるものについて考えているとどうしても思い浮かべるものがあります。2000年代初頭あたりにプロレス界隈で言われていた言葉。「マーク・シュマーク・スマート」というものです。

本格的にインターネットが普及する前の2000年代初頭の話で、プロレスマニア向けの用語なのでご存知ない方も多いでしょう。基本的にプロレスのウラを暴くような話ですが、そのあたりについて考えてみます。

シュート活字という概念とは?プロレス八百長論について

田中正志(後にタダシタナカに改名)という人が提唱した概念で、要はプロレスマスコミの姿勢として「団体側が提供する物語性そのものを伝えるのではなく、俯瞰的・客観的にジャーナリズムとして真実を伝える活字」というものです。

わかりにくいですよね。
これをわかりやすく面白おかしく、解説してくれているのがこちら。浅草キッドのWEBサイトの文章です。

今こそ“シュート活字”宣言!

これ、当時私もここのページで読みました。まだインターネットは「テレホタイム」とか言われていた頃です。ちなみに水道橋博士はこの頃、メディアで黙殺されていた田中正志をネットでプッシュしていましたが、橋本真也死去時の時に行き違いがあり今は絶縁しているそうです。

要は、プロレスって試合の勝ち負けが事前に決められており、またストーリーや抗争も事前に決まっているのですが、活字においてもその前提で真実を伝えていくというものです。
(さらっと書きましたが、この時点で衝撃を受けたり反論がある人も、とりあえず読み進めてください…)

なので、「プロレスは八百長?と聞かれたら答えは「八百長じゃない」が正解です。勝負を競う競技なのに事前に取り決めがあるのが八百長です。
あらかじめ勝敗が決まっているプロレスというジャンルに対して八百長も何もありませんから。

で、従来のプロレスマスコミは、そこには触れずにプロレス団体の意向に沿った報道をしています(2014年時点でもここは変わりありません)。それが悪いわけではないですが、これってジャーナリズムではないですよね。提供する側からしたら、それに対する批評や裏読みなんかいらないという考え方なのです。

ちなみにプロレスの本場であるアメリカでは、最大手のWWEという団体が株式公開の時に、プロレスは勝敗が決まったショウであることをカミングアウトをしており、また内側を暴いた映画も公開されています。
(アメプロはそうでも日本のプロレスは違う!と思う人も、まずは読み進めて下さい)

マーク・シュマーク・スマート

このシュート活字においてはプロレスファンを3つに分けて定義づけています。それぞれについて簡単に説明すると…

マーク
従来のプロレスマスコミの発信通りに受け取るファン。裏側やカラクリなどを考えない純真無垢な観客。

シュマーク
プロレスが大好きで情報収集し知識も抜群で、ある程度気付いているが全てが決め事だとは思っていない層。

スマート
全てを理解した上で楽しむファン。

そして日本ではこの「シュマーク」層が非常に多いようです。
「ノアだけはガチ」「IWGPチャンピオンが一番強い」と思っているタイプですね。そういう人たちは、新日本プロレスのレフェリーだったミスター高橋の暴露本を読んで衝撃を受けてファンをやめたりしているわけです。

マークと呼ばれる人は人畜無害。子供のように純粋に楽しんでくれる人たちなので問題ないですが、肥大化してしまったシュマーク層を「スマート」に育てることが重要だとのことです。

当然、プロレスにおける一つの事象についても考え方はさまざまです。

例えば…
アントニオ猪木のセメントマッチ(あらかじめ勝敗が決まっていないガチンコの試合)は、モハメッドアリ戦とアクラムペールワン戦の2試合だけだ、という定説があります(真偽は知りませんよ…)これをファンに聞かせると、

マーク「???」何言ってるの?
シュマーク「2試合だけ?」と信じない
スマート「2試合もしてるの?普通はゼロだよ。すごい」

となるでしょう。プロレスの仕組みを伝えるということは、同時にそのジャンルの凄みやダイナミズムを伝えることになるので、それをわかった上で見ると、「やっぱりプロレスはすごい」となるわけです。

そして田中正志もミスター高橋も、当時低迷していたプロレス界に対しこうした「カミングアウト」を推奨していました。カミングアウト後のWWEの大躍進を盾にしていていましたが、実際にメディアはほぼ黙殺。

シュート活字はプロレス復興の引き金になったのか?

ここまでシュート活字について書いてきましたが、私は個人的には「面白い見方の一つだな」という感想です。裏側もカラクリも知った上で見た方が楽しい、というのは全く私も同意見で、プロレスから格闘技まで地続きの「そこが丸見えの底なし沼」と呼ばれる魑魅魍魎の世界は、俯瞰で客観的に見て面白がるのが大人のファンであると言えます。

ただ、こう言っている私はスマートのつもりですが実は「シュマーク」かもしれない。もっと隠された真実があるのかもしれない。それでいうと田中正志も本当にスマートなのか?という疑問も湧きます。

この奥深さが「プロレス的」でもありますが…

そして今。2014年は、再びプロレスがブームのようです。では、結局今起きているプロレスブームは、一体どこの層を取り込んだのでしょうか?次回の記事に続きます。